或る復讐者のクロニクル
「汚泥にまみれた僕を抱き
──お前もその身を腐らせろ」
とある国の王宮に、仲睦まじい二人の王子がいた。
しかし王位継承者である兄は取り巻きの貴族達に惑わかされ、次第に弟を遠ざけるようになる。
兄に見放された弟は、十の誕生日を控えた夜、暗殺の濡れ衣とともに謀殺された。
…と、ここまでが奴等の筋書きだった。
月日は流れ──九年後の王都。
歴史ある城壁に守られた砂漠の街を、ひとりの青年が歩いていた。
みすぼらしい服装だが、長めの前髪から垣間見える彼の器量はすこぶる良い。
その身なりや背高は男に違いないのだが、その顔つきには女人のような儚さがあった。
見惚れた街人が思わず行くあてを尋ねると、凛と静けさの籠もった声で青年は答える。
王宮へ向かい
国王の直属部隊である、近衛隊に志願すると。
「やめときなよ綺麗な兄ちゃん。爵位を持たない身分で近衛兵になったところで、お貴族さま御用達の男娼にされるのが関(セキ)の山だ」
「……知っているさ」
街人はそれを愚かだと止めたが、青年は聞く耳を持たなかった。
──
目的の為に身体を売り……心を殺した。
これは、美しく成長し舞い戻った青年の、耽溺な復讐の物語。